金融庁の「NISAの活用事例」を鵜呑みにしても大丈夫か
金融庁が2016年5月30日付で、NISA特設ウェブページを開設しています。
主要コンテンツのNISAの活用事例では、6つの具体的な事例を挙げています。
私は、金融庁の公式サイトだから変なことは書いていないだろうと思って閲覧したのですが、どうも様子がおかしいのです。
腑に落ちる事例が1つしかない
事例は、「結婚資金」「セカンドライフ資金」「教育資金」「住宅購入資金」「海外旅行資金」「投資の学習」の6つで構成されています。
まず、字面だけ見て、投資に向いていると思えるのは、「セカンドライフ資金」と「投資の学習」の2つです。
このうち、「セカンドライフ資金」は、前提条件が事例として相応しいとは言えません。
つまり、事例として適切そうなのは、「投資の学習」しかないのです。
結婚資金
社会人2年目で24歳のKさんが、結婚資金や結婚後の新生活資金の準備を目指しています。
積立預金と並行して、毎月3万円を5年間、インデックスファンドで積立投資するようです。
投資手法に異存はありません。しかし、結婚というイベントは、計画通りに起こせるものではないでしょう。
仮に、積立期間が満了する5年後の29歳時点で結婚するにせよ、市場動向が芳しくなければ、大幅なマイナスとなる可能性もあります。
いわゆる地味婚や、質素な新生活も悪くありませんが、人生の一大イベントに悔いを残すようなことは、通常は避けたいですよね。
セカンドライフ資金
セカンドライフ(老後)に備える資金の形成としては、投資が向いていますし、最も順当な事例のように思えます。
しかし、今年52歳になる会社員のBさんが、毎月3万円を8年間、バランスファンドで積立投資し、60歳になる前にあと300万円以上は準備したいそうなのです。
ここでは、預金積立と投資積立の両方を例示していますが、預金では289.1万円(金利0.1%)、投資では324.7万円(金利3%)となっています。
今となっては、0.1%の預金金利さえ夢物語ですが、3%の運用成績を達成するというのも、短い投資期間では難しいように感じます。
そもそも、毎月3万円を8年間、積立預金すれば、無金利でも288万円を確実に形成できるのです。
わずか12万円(以上)のために、投資でリスクを負う必要があるのか、甚だ疑問です。
このケースでは、むしろ預金積立を薦めるのが筋ではないでしょうか。
教育資金
小学生(10歳)の子どもがいる37歳のAさんが、大学の初年度学費として250万円を形成したいと考えています。
なお、248.9万円あれば、私立大学文系学部の初年度学費を賄えるそうです。
ジュニアNISAを活用し、毎月2.5万円を8年間、ターゲットイヤー型ファンドで積立投資するという結論に達しています。
このケースも同様に、毎月2.5万円を8年間、積立預金すれば、無金利でも240万円を形成できますので、わざわざリスクを負う必要はないでしょう。
住宅購入資金
30歳・既婚者で共働きの会社員のTさんが、マンション購入の頭金の一部として、38歳までに400万円を準備する算段です。
どうやら、国内債券に多く振り向けている投資信託で積立投資し、1.2%の運用成績を確保したいようです。
いやはや、突っ込みどころがたくさんあって困ります。
まず、現在のマイナス金利政策下では、国内債券中心の運用そのものがハイリスクですし、1.2%の運用成績さえも期待できないでしょう。
次に、毎月4万円を8年間、預金積立すれば、無金利でも384万円を形成できます。足りない16万円は、ボーナス月にでも増額すれば済む話です。
最後に、もし投資で失敗した場合、マンション購入を諦め切れるのでしょうか。または、物件のグレードを下げても納得できるのでしょうか。
または、最初から頭金を多少減額しても構わないでしょう。
どことなく、「悪徳金融機関にまんまと丸め込まれたTさん」の事例にも読めてしまいます。
海外旅行資金
40歳のSさんが、自分と家族への「ご褒美」として、5年後に家族3人での海外旅行を目指しています。
毎月1万円を5年間、インデックスファンドやバランスファンドで積立投資し、60万円(1人当たり20万円)を形成する目論見です。
さて、このケースはそもそも、預金積立のみで60万円を形成できます。
投資で失敗しても、ご褒美がないだけで実害はありませんが、あえてそのようなリスクを負うでしょうか。
一応、為替リスクのヘッジを目的として海外資産へ投資するというのであれば、苦しくとも説明がつきそうです。
しかし、本文中には外貨建ての資産に投資する投資信託
には為替変動リスクがあるので注意が必要
との但し書きがあり、ちぐはぐになっています。
私は好きではありませんが、FXなどで為替リスクをヘッジするほうが、妥当な方法だと思えてなりません。
投資の学習
大学生のFさんが投資に興味を持ち始め、とりあえず毎月5千円を5年間、積極的に増やしてみたいと考えています。
株式中心の(アクティブ)ファンドで積立投資し、8%の運用成績を狙うようです。
このケースは、特に目的の定まっていない資金であり、かつ少額のため、ハイリスク・ハイリターンを志向しても、特段の問題はないでしょう。
ギャンブルやデイトレード・FXなどに手を出しそうなところを踏みとどまり、NISAを活用するという判断も、なかなか立派なものです。
金融庁は結局何を言いたいのか
「投資の学習」を除く5つの事例は、どれも投資期間が短いばかりか、わずかな不足金額を埋めるために、投資のリスクを負わせています。
また、「海外旅行資金」も除く4つの事例は、投資での失敗を許容できるとは思えません。
さらに、「投資の学習」では、結果的にハイリスク・ハイリターンの投資を薦めており、堅実な資産形成の事例とは言えません。
それに輪をかけて、投資で失敗した場合の結果について触れていないのも、都合が良すぎます。
果たして金融庁は、本当の意味での「貯蓄から投資へ」を目指しているのでしょうか。
金融リテラシーに乏しい投資家が、これらの事例を鵜呑みにした結果、「金融庁(国)に騙された」と怒りそうです。
いずれにせよ、現在の期限付きNISAにおいて、これらの事例が適当でないことは、もはや明白です。
NISAの恒久化を早く実現するよう、金融庁に強く望みます。
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