愛する人に送る「投資に関する覚書7条」は古くて新しい
かつて、SBIファンドバンクという企業が存在しました。
同社のサイトには、代表取締役の植村佳延氏による「植村のフォーカスプラス」というコーナーがありました。
そちらへ2008年5月28日付で掲載された記事に、私は大変な感銘を受け、手元に記事の写しを残していました。
この記事の一字一句に投資のエッセンスが凝縮されており、今なお色褪せることはありません。
本来であれば原典をご覧いただきたいのですが、残念ながら、同社のサイトは既に存在しませんので、全文を転載します。
なお、原典の所在をご存知の方がいらっしゃいましたら、ぜひお知らせください。
愛する人に送る「投資に関する覚書7条」
高校3年生の息子に投資に関する話を得意げにしている夢を見ました。投資に関するノウハウを網羅はしていませんし、取り上げ方は順不同。でも言っていることは本音です。時間のある方は読んでみてください。
(第一条)お前はまだ若い。時間を味方にできるのが最大の強みだ。就職したらコストの安い投資信託を毎月同じ金額積立てなさい。それだけでは面白くなかったら、新聞紙面で株式市場が暴落し、高値から20%以上調整と書いてあったら、余裕資金をつぎ込んで株式投資信託を買いなさい。
これが、「投資の王道」だ。後は忘れていい。これが一般投資家にできる最高の投資手法だ。唯一信じるべきことは、株式の長期的なリターン、つまり長期的な資本主義のダイナミズム。
(第二条)もしお前に分別があり、株式投資というものを考える余裕資金ができたなら、「ウォール街が血にまみれたとき」に投資を始めなさい。
歴史は繰り返す。強気相場は、悲観に生まれ、懐疑に育ち、楽観に成熟し、幸福感のうちに消えてゆく。
悲観、懐疑に包まれているときに投資をしなさい。(間違っても楽観、幸福感で投資して悲観で売却しないように。)金融ショック(あるいは金融引き締め)で株式市場が暴落し世間が悲観論に包まれたとき、あるいはその後に来るかもしれない企業業績の不振で株価が下落し懐疑論に包まれたときに投資をしなさい。
人に相談してもあまり意味はない。周りの人が強気であることはその投資が成功するなんの根拠でもないし、弱気であることはその投資が失敗することのなんの根拠でもない。人の意見が気になって仕方がなかったらタイミング投資はやめなさい。
(第三条)個別銘柄のナンピン(株価が下がって投資した株式に評価損が出た場合、そのコストを下げる為に追加投資をすること)には注意しなさい。
儲かると考えて投資した銘柄に評価損が出ている場合(一度も利益がでないで沈んだ場合は、特に)は、その投資アイデアが間違っているか、すでにそのアイデアが株価に織り込まれている可能性が高い。あなたの投資対象に関する知識が、万人に抜きん出ている自信があるならナンピンしなさい。そうでないなら、間違った投資を増やすだけになる可能がある。
儲かると考えて投資した銘柄に本当に利益が出た場合は、むしろ安易に売らないように。自分のアイデアが間違っていない証拠だから、依然として安いと思うなら買い増したほうが正しい場合が多い。
(第四条)金利のかかる資金で投資(例えば信用取引)をしようと思うなら、必ず損切りを考慮しなさい。
金利のかかる資金で投資するなら、まず私の部屋にある投資に関する本をひととおり読んでから始めなさい。
これだけは言っておく。必ず数銘柄に投資しなさい。決して利益の出た銘柄を早売りし、損の出た銘柄を放置しないように。損を放置し、布団をかぶって寝込むことのないように。修復不可能な状況に陥るだろう。買ったときからストップロスポイントを決め、損の出た銘柄を早めに見切り、利益の出た銘柄はできるだけゆっくり眺めていなさい。
(第五条)投資手法には有効性と限界がある。
投資理論の教科書をみると、テクニカルアナリシスは一番稚拙で当たらないとコメントしている(市場の効率性の議論)場合が多い。でも、医者に診察を受けるときに聴診器も体温計も使わない医者を信じられるか?投資する前には必ずチャートを見なさい。株式投資の利益は、少数意見である自分の投資アイデアが多数意見になる過程によって得られるものであるから、チャートをみて既に株価が上がっているなら、ほとんどの場合やめたほうがよい。
でも、チャートだけで相場をはるな。いくらチャートにルールを設けて投資しても、勝敗率が50%を上回るようなうまいルールはない(万が一あっても人が知ったらその有効性はすぐ消えてしまう)。
証券会社の業績予想は当てにするな。的中率は高くない。(証券会社の調査は、市場の回転率を上げる為にあるといったらバチが当たるかな。)
それよりも会社の純資産(総資産から負債を差し引いたもの)に注目しなさい。株価が1株あたりの純資産の何倍で推移しているか、これがPBR(プライスブックバリューレシオ、株価純資産倍率)だが、PBRの過去10年のレンジを計算して、安い銘柄に投資するほうが的中率は高い。世の中の80%の企業の好不況は循環している。
また、業界一流企業に不祥事が起きて株価が暴落した場合はチャンスだ。前提は、屋台骨がくずれないこと。一流企業には、普段は株価にプレミアムがついている。ところが、そうした不祥事銘柄がポートフォリオに入っていることを資金の預託者が嫌がることを察して、機関投資家が売却を急ぐ場合が多い。その結果、プレミアムが剥げ落ちるどころか、割安な水準まで売り込まれることもある。
歴史に名の残るような成長企業にあらかじめ投資することは非常に難しい。アナリストに聞くよりもアメリカに行って、日本で知られていない成長企業を発掘するのが一番。ソフトバンクの孫社長が実践した「タイムマシン投資」だ。
でもあらゆる投資手法は、有名になれば有効性をなくすることに注意しなさい。 今マーケットを動かしているルールを発見することは重要だが、そのルールの変更を察知できることが更に重要なんだ。
(第六条)簡単に「予測が当たる」「儲かる」と称するやからには気をつけなさい。本当に自信があるなら、人に薦めないで(企業家のように)自分で儲けるはず。
テクニカルアナリシスにも利用価値があるが、自分の低い的中率を気にもかけない占い師のようなテクニカルアナリストがいかに多いことか。ファンダメンタルズ分析も有用だが、オピニオンリーダーになることだけを目指しているやからがいかに多いか。世の中に儲ける手法を売って儲けた人は多いが、その手法を使って自分で儲けた人はなんと少ないことか。
(第七条)何の為に投資するのか目的をはっきり意識しなさい。
投資で常に成果を上げ続けるには、かなりの心理的なプレッシャーに耐える必要がある。
まず、何の為に投資するのか目的をはっきりさせなさい。老後の生活資金を作る為、子供の教育資金、事業を立ち上げる為の資金作り等いろいろあるだろう。
目的達成の為に必要なリターンと投資期間を検討し、元手となる資金の性格も考慮して、むちゃなリスクをとらない様に気をつけなさい。
お金に振り回されないようにしなさい。資金運用は手段であり、最終目的ではない。お金だけで幸せにはなれないことを胆に銘じなさい。
ちなみに、私が株価指標としてPBRを重視するようになったのは、この記事を読んでからのことです。
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