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「金融レポート」を読む(2)NISAの現状と課題等

NISA口座開設者の投資経験・同(年齢別)のグラフのイメージ

金融庁が2016年9月15日付で、金融レポートを公表しています。

本記事では、金融レポートの「NISAの現状と課題等」(56ページ目以降)の節を追ってみます。

NISAの現状と課題等

金融庁の現状認識は、以下の通りです。

NISA口座の開設者に占める投資未経験者の割合は約30%となっており、投資未経験者への投資の裾野拡大の効果は相当程度あったものと評価できる。

さらに、こうした投資未経験者の割合は、若い世代ほど高く、特に20歳代、30歳代においてはNISA口座開設者のほぼ半数を投資未経験者が占めている。

投資の裾野拡大の効果は若い世代ほど大きかったものと考えられる。

他方、NISAを利用した積立投資の実施状況を見てみると、2015年12月末時点で積立設定件数は約90万件と、同時点のNISA口座数(約1,000万口座)の1割以下となっている。

NISAの開始によって投資経験者が着実に増えているものの、積立投資は低調だという現状が浮き彫りになっています。

NISAを積極的に活用したいのですがの記事の通り、積立投資との相性が今一つの制度設計となっていますが、この点は現在、各方面より改善の提言がなされているところです。

ただ、若い世代ほど積立投資の設定件数が多いことに触れ、潜在的には現役世代において積立投資による資産形成の必要性が認識されていることが窺われるともしています。

つまり、NISAと歩調を合わせるように投資を始めた人は、相対的に金融リテラシーが高く、中長期的な資産形成を指向しているのではないかと、私は想像します。

投資の世界に「一山当てよう」と目論む人が多いのは事実です。しかし、投資に堅実さを求める人が増えているのもまた事実でしょう。

インデックスファンドの純資産総額の増加や、昨今の超低コスト化などが、その証左として挙げられるのではないかと思います。

成功体験と投資手法

もはやNISAの枠内の議論ではありませんが、金融庁はさらに、投資経験者の動向についても考察しています。

また、投資経験がある者であっても、その投資が必ずしも金融資産の増大に結びつかず、投資の成功体験を有していない場合もある。

例えば、短期的な収益を狙って投資商品の売買が頻繁に繰り返されるような場合には、販売手数料等も影響して、長期的な成功体験につながらないことも少なくないと考えられる。

その上で、長期・積立・分散投資の効果や販売手数料の影響等を認識し、投資手法の改善を図ることが重要と考えられると結論付けています。

ある意味で、インデックス投資や長期分散投資を是とする投資ブロガーや投資ブログが、そうした役割の一端を担っているのかもしれません。私や本ブログも、その中に含まれていると嬉しいのですが…。

短期投資は成功体験に乏しい?

金融庁の分析に対して、私が一つ気になったのは、成功体験と投資手法の因果関係です。

私の場合、プロフィールの投資の経歴へ記したように、短期投資で成功体験を得られず、勉強の末に長期投資へと転向しましたから、金融庁の思惑通りに行動していたことになります。

しかし、ネットなどを見ると分かるように、依然として長期投資家よりも短期投資家のほうが多い印象を強く受けます。

短期投資で成功体験を得られなければ、私と同様、長期投資へと転向しそうなものですが、現実はそうなっていないようです。

私が思うに、なまじ短期投資で一時の成功体験を味わったがために、短期投資という投資手法に固執してしまうケースが、結構あるのではないでしょうか。

一方、長期投資での成功体験は、相当の年数を経過してみなければ味わえないでしょう。

長期投資で一時的に大きく資産を減らした場合などには、むしろ失敗したとさえ感じてしまいそうです。

そのような経緯を経て長期投資から短期投資へと転向するケースも、ないとは言えません。

したがって、この2者をもって因果関係を結論付けるのは、少々苦しいと思えるのです。

NISAの課題

金融庁は、NISAの課題について、以下のようにまとめています。

家計の「貯蓄から資産形成へ」という流れを政策的に後押しし、分散投資を通じた国民の安定的な資産形成を促進する観点からは、少額からの積立・分散投資の促進のためのNISAの改善・普及が課題となるものと考えられる。

が続いて非常に読み辛い一文ですが、要するに、NISAが普及すれば、「貯蓄から資産形成へ」が本流になると、金融庁は考えているようです。

そこで大切なのは、分散投資や少額からの積立投資を促進するという点です。

しかし、NISAは、投資家が自由に金額も金融商品も選択できますから、金融庁の思惑通りに使われないケースが出てきてしまいます。

金融庁は今のところ、この件に対して何も触れていませんが、いずれ問題となる時期が来るのではないかと想像します。

イギリスのISAとの違い

NISAは、イギリスのISAをお手本としていますが、制度導入の背景は大きく異なります。

イギリスは、個人の貯蓄が少ないために、政府の社会保障費が増加の一途をたどっていました。

この悪循環を根本から断ち切るには、個人の貯蓄を増やすしかありません。そこでISAを導入し、着実に成果を上げています。

一方の我が国は、個人の貯蓄が多すぎるために、バブル崩壊後、資金の流通が極端に減り、長期にわたる経済の停滞を招きました。

そこで、投資を通じて資金の流通を活発化し、ひいては経済の成長へと結び付けるべく、NISAを導入しています。

このように、背景事情が異なるのですから、制度設計が異なるのは自然なことです。

しかし、NISAの蓋を開けてみれば、ISAと比べて金融商品の選択肢が少なく、非課税枠が小さく、非課税期間が限定されており、再投資の制約が厳しいなど、「ISAの劣化版」と呼ばれても仕方のない出来でした。

これらは、単にパラメーター(数値)を変更しただけに過ぎず、制度設計に手を入れたとは言えません。

NISAは、中途半端にISAを真似ようとして、制度の魅力を削いでしまったのではないかと、私は考えています。

ちょっとした思考実験を経て

私は、NISA口座に入れられる金融商品を、金融庁が選定した特定の数本に限定するという思考実験をしてみました。

「分散投資や少額からの積立投資」に合致したバランスファンドだけにすれば、金融庁の目論み通りに事が運ぶという算段です。

ただし、現行制度と比べて自由度が極端に下がりますから、NISA口座へ拠出した全額を所得控除の対象とするなどの方策を組み合わせ、制度の魅力は維持しなければなりません。

また、これだけでは合法的な税金逃れが横行するでしょう。そのため、NISA口座からの引き出し時に税金を徴収するなどの工夫も必要でしょう。

運用期間中の非課税が堅持される限り、長期投資のほうが有利となるのですから、制度を正しく使う上では障害とならないはずです。

他には、確定拠出(DC)年金制度とのすり合わせを行う必要などもありそうですが、議論の本筋ではないため省きます。

制度設計として考えると、詰めが非常に甘いのは否めません。しかし、NISAは果たして、これくらい突拍子のない案が出るほどの検討を経たのでしょうか。

さらに、NISAに対して改善の提言がなされている案も、単なるパラメーターの変更に留まっている点は気がかりです。本当に、現行制度を基準としたままで良いのでしょうか。

我が国の背景事情に合致した、本来あるべきNISAの姿を今一度模索してみる必要があるように、私は強く感じています。

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