「金融レポート」を読む(3)日米の投資信託販売状況の比較/販売会社における投資信託の販売姿勢
金融庁が2016年9月15日付で、金融レポートを公表しています。
本記事では、金融レポートの「日米の投資信託販売状況の比較」(59ページ目以降)と「販売会社における投資信託の販売姿勢」(62ページ目以降)の節を追ってみます。
日米の投資信託販売状況の比較
金融庁による比較・分析結果は、以下の通りです。
日米で販売されている投資信託について、規模の大きい商品(純資産額が大きいもの上位5銘柄)を概括的に比較すると、我が国の投資信託は、米国のものに比べ、1本当たりの規模が小さく、設定以来の年数が短く、手数料が高いという結果となっている。
また、長期的に見た場合(10年間)の運用結果(収益率)にも大きな違いが出ている。
国 規模(純資産) 設定以来期間 販売手数料 信託報酬 収益率 日本 1.1兆円 13年 3.20% 1.53% -0.11% 米国 22.6兆円 31年 0.59% 0.28% +5.20% (注記)表中の販売手数料・信託報酬・収益率は、年率の平均値です。また、販売手数料・信託報酬は、税抜です。
投資信託の規模が小さければ、一般的には、スケールメリットが働かないために管理コスト等は割高になりがちであり、顧客が支払う信託報酬等の手数料も高くなるものと考えられる。
金融庁は、我が国はテーマ型のアクティブファンドが多く、米国はオーソドックスなインデックスファンドが多いと分析しています。
また、前者は市場の環境や関心が変わると人気がなくなるため短命に終わり、後者は手数料が低水準のため長命となりやすいとしています。
さらに、毎月分配型ファンドが多いことも、我が国の特徴として挙げています。
これらについては、既にご存知の読者の皆様が多いと思いますが、監督官庁である金融庁も同じように分析しており、現状認識を共有していると言えます。
販売会社における投資信託の販売姿勢
金融庁による比較・分析結果は、以下の通りです。
日米比較から、我が国では、家計の安定的な資産形成に適した投資信託が必ずしも広く提供される状況にはなっていないものと考えられる。
その背景としては、例えば販売会社については、短期的な手数料収入等の足元の利益を優先させるあまり、顧客の長期的・安定的な資産形成に貢献し、そのことにより自社の収益基盤の拡大も図っていく、という姿になっていない状況が推察される。
- 投資信託が短期的なリターンを狙う回転売買の商品として使われ、長期的な資産形成に資する商品としては十分活用されていない(中略)。
- 顧客の運用方針にかかわらず、販売会社は、主として収益分配頻度の高い商品を提案している(中略)。
- 販売会社においては、(中略)好事例と懸念事例が存在する等バラツキが出ており、顧客本位の取組みには、総じて改善の余地が大きい。
販売会社において、対面営業を行う場合は、顧客の安定的な資産形成を促すために、個別商品販売中心の営業スタイルから脱し、顧客のライフステージや属性を把握した上で、それに適う運用を提案するというコンサルティング営業を進めることが望まれる。
こちらも、現状認識を共有していると言えるでしょう。
なお、コンサルティング営業の質を向上すべく、(中略)顧客に適した投資信託ポートフォリオを無料で提示するといった取組みを行っている先が見られる
とも記しており、ロボ・アドバイザーに対して、金融庁が一定の評価をしていることを読み取れます。
何度も繰り返しますが、私自身は、ロボットによる投資アドバイスは有用かの記事の通り、この手のサービスに対して懐疑的です。
しかしながら、現在の対面営業の実態と比較すれば、ロボ・アドバイザーのアプローチは、相対的に筋が良いと考えられます。
私がロボ・アドバイザーに懐疑的なのは、フィデューシャリー・デューティーを果たしているか否かです。
アプローチが正しくとも、提示する投資信託が本当に「適した」ものであるか否かは、検証が難しいからです。
特に、高コストのアクティブファンドを推奨するようなロボ・アドバイザーは、信頼してはならないと思っています。
対面営業にしてもロボ・アドバイザーにしても、改善の余地は多々ありますが、最初から完璧を求めるのは、無理な要求です。
その代わり、スピード感を持って改善を繰り返し、より早く完璧に近づくよう努力して欲しいと願っています。
投資家側にも責任がある
さらに私は、金融庁が回転売買について触れている点を高く評価しています。
回転売買の弊害は、かねてより各所で指摘されているところですが、売買手数料がかさむ点と複利効果を得られない点は、投資家自身も特に認識しておかなければなりません。
また、目先の利益を狙う点については、投資家側にも多分に責任があるでしょう。
先の分析に当てはめると、テーマ型のアクティブファンドは、まさにその好例です。流行の追っかけに終始するような金融リテラシーの持ち主が、販売会社の食い物にされているとも表現できます。
金融庁としては、投資家保護の観点から販売会社側に改善を求めていますが、投資家側にも暗に改善を求めているように読み取れる気がします。
例えば、毎月分配型ファンドのメリットだけでなく、デメリットについても包み隠さず開示している運用会社が、最近増えています。
そのような資料の所在を投資家に紹介することは、販売会社の責任かもしれません。
しかし、投資の結果はあくまで自己責任ですから、投資家自身が、様々な誘惑に負けることなく最終判断しなければなりません。
「金融庁は投資家に甘い」と誤解されないよう、一方で釘を刺しておく必要があるように、私は感じた次第です。
シリーズ記事の一覧
- 「金融レポート」を読む(1)家計の金融・投資リテラシー
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- 「金融レポート」を読む(3)日米の投資信託販売状況の比較/販売会社における投資信託の販売姿勢
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